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日本建築の伝統的素材に関する研究

上の図は今回の論文の模式図です。
畳産業の現状
 宇都宮大学工学部建築学科修士3年の森尚美です。私は今回修士論文の題材を「畳」にしました。私は宮城県仙台市で生まれましたが、父が転勤族だったために、仙台で暮らしたのは生まれてから2歳まででしたので、宮城県はもちろん仙台市についてでさえもほとんど知りませんでした。しかし今回那須建設の那須さんから、
宮城県は畳床の生産が日本一なんだよ
・・・ということを聞き、また私は建築学科でも特に材料研究室に所属していましたので、日本建築の伝統的な素材として畳を取り上げてみようと思いました。
正直言いまして私の畳についての知識はほとんど全くと言っていいほどありませんでLた。恥ずかしい話ですが、畳床と畳表の区別さえ定かではないぐらい知りませんでした。ですから「宮城県は畳床の日本一」といわれても、一番はじめはよく分かっていませんでした。
こんな状態から始めた調査研究でしたが、畳組合の方々にお話しして頂いたり関連文献を見たりしながら、だんだんと畳についてのいろいろな情報や知識を得ていきました。この一年間で調べた結果を論文とし、梗概集を作成いたしましたのでこれから皆さんにお伝えしようと思います。
まず、最初に畳についての基本的知識を把握しようと、畳の概要を述べることにしました。
畳の歴史

 畳の誕生は古く、奈良時代に初めて文献に現れました。しかし平安時代までは建物は寝殿造であり、当時の床は板敷きで、畳は寝具や座具として使用されていました。やがて鎌倉時代から室町時代にかけて書院造が完成され、部屋全体に畳が敷き詰められるようになりましたが、まだ上流階級の間でしか使用されていませんでした。
江戸時代に入って書院造は茶道の発達によって数寄屋建築となりましたが、町家にも普及するようになったのは江戸中期のことであり、農村においてはさらに遅く明治時代になってからのことでした。
しかし大正・昭和にかけて洋風文化が入ってきたことで和洋折衷住宅となり、和室にカーペットを敷くなどして洋風にするなどの変化が見られるようになりました。

畳の構成
 畳は床・表・縁の3部分から構成されます。畳床は基本的にはワラを原料とし、そのワラを縦横に並べて糸締めして作られます。畳表は主原料のい草を横糸に、麻糸を縦糸としておられたものであり、い草の種類によっていくつかの等級に分けられます。しかし住宅事情の変化から、湿気を吸収し床下に放出するという畳の長所がコンクリート造の気密性の高い住宅にはデメリットとなり、最近ではワラやい草の代わりに化学製品を用いたものが商品化されています。それを図にしたものが下記の絵ですが、これはワラ床と化学畳の断面で、化学畳にはインシュレーションボードやスタイロフォームが使用されています。
現在ではさらに開発が進み、薄畳やカラー畳が誕生しています。

というような知識をふまえた上で、実際の畳産業の現状をみていくことにしました。
市場の変化

 (図−1)日本の新築住宅着工戸数を見ますと、戦後の住宅不足解消のために昭和20年代から毎年増加し、昭和48年に190万戸とピークを迎えています。その後オイルショックにより一時低迷し昭和58年の110万戸まで下がったものの、バブル経済の出現に向かって再び上昇しており、昭和に入って2回の着工の伸びがあることが分かります。

 (図−2)しかし畳出荷量のほうをみますと、高度経済成長期には新設住宅着工戸数の増加とともに4000万枚近くに増えていますが、その後の住宅着工戸数の再上昇には関係なく昭和56年以降約半分と低迷したままであることが分かります。このことは住宅着工戸数とは別に、昭和55年以前に比べて、1住宅あたりの畳数の割合が0.25%前後から0.1%へと急激に減少したことが原因になっているといえます。
 (図−3)またメンテナンス面に関してですが、畳替えについてのグラフを見ますと畳替えの数量は昭和48年から少しずつ減少していることが分かります。また消費者の全消費に占める畳換え支出の割合を見ても低迷しています。

(図−4)これは平成2年と平成8年における消費者への畳に関するアンケート結果ですが、表替え・裏返しをしたことのない割合が2割から7割へと急に大きくなっていることが分かります。

こうした変化における業界側の背景として、高度成長期に新築向け工事需要の依存度を高めてしまい、畳の表替えや裏返しなどメンテナンス面での工事需要の維持及び育成にカを入れなかったことが考えられます。その結果、現状として消費者の畳に対する意識が低下したことに対応できなくなってしまったのではないかと思われ、今日の需要伸び悩み時代を迎えているといえます。

住環境の変化

 戦後特に日本の住環境は変化し、畳業界に大きな影響を与えたと思われます。まず生活様式において食寝分離や洋風化指向が高まり、消費者の畳に対する関心度が薄れたことがあげられます。

 (図−5)これは昨年度の畳に関する消費者アンケート結果ですが、畳の購入価格又は修繕価格を知っていますかという質問に対して、ほとんど知らないと答えた人の割合が宮城県・東京都ともに約半数を占め、よく知っている人の割合はどちらも10%未満という結果になってしまいました。このアンケート結果からも、畳についての関心の薄さが分かります。
この洋風化によって座式から椅子式への生活へと変化し、また技術の進歩によって部屋に置かれるようになった大型家具や家電が、畳を傷つけるだけでなく畳の取り替えも困難にさせてしまったため、畳の部屋特有の自由な住まい方が制限されるようになってしまいました。

(図−6)1世帯当たりの人員が昭和28年に比ベ5人から3人へと減少しており、反対に1住宅あたりの居住室数が増加していることが分かります。これは1人あたりの居住室数が0.66室から1.66室へと増えたといえます。つまり家族構成の少数化(核家族化)によって、現在では1人につき1部屋使用できるという状況になり、以前の大家族に適していた多目的多人数で使用できるという和室の必要性が薄れてしまったことも住宅プランの変化の原因となっています。

(図−7)また建築的な面では、都市圏への人工集中により、木造一戸建て住宅に変わって鉄筋コンクリート造集合住宅が普及したことがあげられます。このグラフはワラ床と建材床の合湿量の経過を表したものですが、ワラ床は最初建材床に比べて非常に多くの水分を吸収しますが、同時に湿度を多く拡散していくことがわかります。つまりワラ床を使った畳は室内の水分を多く吸収し、床下にいち早く放出させるという長所を持っているといえます。しかしコンクリート造によって建物は気密性が高まり、畳は吸収した湿気を床下に放出できない状態になり、畳にダニ・カビを発生させてしまったことで、消費者の畳に対するイメージをも低下させてしまいました。

(図−8)また和室数を比較してみますと、都市部と地方を比較した場合、東京都では和室が1〜2部屋というのに対して、宮城県は3〜4部屋という割合で和室数が多いことが分かり、都会の和室離れがすすんでいるといえます。しかし宮城県でも平成2年に比べると、和室が5部屋以上あるという割合は37%から14%に減少していることから、地方においても和室数の減少傾向がみられることが分かります。さらに施工上和室は特別な造作を必要としメンテナンスにも手間がかかることや、また最近登場したフリープランではフローリングのような再レイアウトしやすい洋室の方に人気があること等も和室の減少につながっていると言えます。

生産者の現状

1.流通体制の変化
市場の変化は流通体制にも大きく影響しています。住宅メーカーやゼネコンの進出によって、以前は消費者と大工(職人)の直接的な関係で成り立っていた住宅施工でしたが、消費者との関係が間接的なものに変わっていってしまいました。
また、い草やワラなど畳資材も外国産の輸入という新しい流通体制が加わり、畳産業以外の輸入卸業者が参入するようになってきました。さらに、畳床については畳表を取り外さない限り検査することはできないために、こうした流通の混乱は品質低下や価格低下等の減少を招いています。

2.営業体制の現状
(図−9)全国の世帯数は年々増加していますが、畳店は昭和57年をピークに少しずつ減少しており、世帯数における店舗の割合も昭和51年では2000世帯に1軒だったものが、平成3年には3000世帯に1軒という分布状況になっています。畳店の多くは個人経営であり、消費者の要望に応えた直接の販売方式をとっています。また職人業という受け身体制の経営であり、ほとんど企業としての営業(PR・広告等)をしていないのが現状です。しかし製造工程の機械化によって大手素材メーカーやゼネコンが畳の大量生産を可能にしたため、小規模な畳店は受注量の影響を受け苦しい状況に立たされています。

 この受け身的経営体制は消費者や設計者の畳意識を薄れさせています。先ほどの消費者アンケートによる畳店の認識度のデータでは、畳店を1〜2店知っているという割合が約6割を占め、1つも知らないという割合も全体の4分の1という状況になっています。  また平成3年に大阪畳共同組合が設計者に畳に関するアンケート調査を行った結果、設計者でさえ畳屋を知っている割合は半分にみたず、47%という結果でした。
 (図−10)その畳についての情報源はというと、畳屋からという割合が一番多くなっていますが、その他の意見が全体の3割以上となっています。

(図−11)その他の内容をみてみますと、どこからもなしや従来の経験、あるいはどこに聞けばよいのか分からないという意見の割合が多く、畳店のPR不足が表れた結果といえます。

 (図−12)さらに畳に対しての印象についてですが、古くさい印象や目立ちにくい印象を持っていることが分かり、今後どちらともいえないという割合をいい方向へ持っていけるかどうかが畳店の課題のポイントといえます。
そして今後問題になってくるのが廃畳です。
 (図−13)現在使用されている約10億枚の畳の大部分は戦後(特に昭和50年代)の住宅建設ラッシュで新畳として使用され始めたものです。この畳が今後一斉に廃畳として交換される’畳交換ラッシュ’の時期が来ようとしていますが、その処理システムはまだ確立していません。現段階では畳工事業関係者や自治体が回収し、主に焼却という処理方法をとっていますが、これから増えてくる化学畳については有害ガスが発生するという問題が起こるために、現に自治体の処理施設では受け入れを断る所もでてきています。また化学畳に使われる発泡剤は再利用することができるのですが、畳床を構成しているそれぞれの材料を分離させることは難しく、リサイクル費用として焼却費用の3〜4倍はかかるためにあまり積極的姿勢を見せていないのが現状です。
しかし最近では、海岸線の飛砂防止フェンスやゴミ埋め立て場の床および壁材といった全く違った分野で再利用するケースもでており、新しい処理活用法として注目されてきています.また古畳を裁断破砕してバイオ処理し、普通の土に返し土壌処理剤として使用するという「無公害処理」および「再活用化」事業が発案されており、コスト面の問題がなければこのシステムの確立が今後期待されるものと思われます。
最後のまとめです。
 (図一14)これからの建設事情において、多くの住宅が建て替え時期を迎えようとしていることや、ライフスタイルの変化に伴う増改築ニーズが高まるとの予測があります。90年代に入ってこれまでのマンション建設から2世帯住宅に関心が移り、高齢者社会の進展も加わって、使い勝手の良い「和風見直し」の傾向が生まれていることから、畳業界市場における需要増加の要素は持っているといえます。

 (図−15)これは今後の量産業の予測を図式で表したものであり、その「和風見直し」志向に消費宣伝活動やトータルプランニング施工の実施といった畳業界の積極的姿勢を加えることによって、畳業界が社会的に向上するものと思われます。
さらにそれに伴って畳に対する消費者意識も高まり、現在問題とされている後継者・人材不足や工事需要の減少に解決の展望がみられると思われます。

 以上、市場と住環境と生産者側から現状を捉えてきましたが、いずれにしても消費者が畳についての関心度を高めるということがポイントとなってくると思われます。
またこうした状況から、畳は日本独特の床材であり、減少することはあってもなくなることはないとおもわれます。日本人には伝統的素材である畳も、近年外国人にとっては新しい素材として関心を寄せられています。畳には慣れ親しんできた日本人も、畳に対する従来のイメージが変わり、これから新しく見直されるようになることが期待されます。


以上で終わります。

 今回の論文については、まだはっきりしていないところもありましたが、大体このような感じにまとめることができました。畳のきっかけを作ってくださった那須さんに感謝すると同時に、畳についての知識を少しでも得ることができまして、私自身とても勉強になりました。
宮城県畳床工業組合の佐藤さん、佐々木さんをはじめ、 この論文を作成するにあたってお話や資料などいろいろと情報を提供していただきました皆さんに心から御礼申し上げます。伝統的な建材である畳ですが、これからも日本の代表的床材として広く親しまれるようがんばってください。

株式会社和楽